CHO-Spica(オリジナルCHO)細胞のご紹介
目次
- CHO-Spicaの特徴
- 各試薬によるトランスフェクション効率
- 安定発現用ベクターと細胞の性能
- 開発秘話
- CHO-Spica細胞よるHRP生産
株式会社ジー・キューブでは、自社で独自に樹立したCHO-Spicaのライセンス販売を開始しました。pCHRベクターシリーズ及び無血清培地(SpicaM-100)も併せてご提供しております。
■CHO-Spicaの特徴
1.利用範囲
本細胞は、医薬品開発に限らず、幅広い用途でご活用いただけます。ライセンス、使用契約の詳細についてはお問合せください。
2.すぐにご利用可能
無血清馴化済み浮遊細胞、独自開発の無血清培地、安定発現用ベクター、一過性発現用ベクターを準備しております。また、細胞の取り扱いも一般的なCHO細胞と同様ですので、動物細胞の培養環境があればすぐのご利用が可能です。
3.生産細胞作製の全工程を無血清培地で対応可能
通常の培養時だけでなく、トランスフェクションやシングルセルクローニングといった工程も効率を落とすことなく全て無血清培地中で行うことができます。
4.一般的なCHO細胞よりも少ない作業量で高生産クローンを取得可能
当社提供の安定発現用ベクターには独自の弱化した薬剤選択マーカーを搭載し、ヘテロセルプールに含まれる高発現株クローンの割合を高める設計となっています。また、シングルセルクローニングでは、当社提供のプロトコールを用いる事で既存のCHO細胞より1桁程度高い回収率を実現する事が出来ます。
5.【実証実験】他の宿主発現系よりも高いHRP生産量を実現
CHO-Spica細胞発現系では、これまで報告された他の宿主発現系よりも高くHRPを生産できます(231 mg/L)。また、精製HRPは既存の西洋わさびから製造されたHRPと遜色ない活性を示します。
■トランスフェクション効率
代表的なトランスフェクション方法で問題なくトランスフェクションを行うことができます。
■CHO-SpicaおよびpCHRシリーズの性能
安定発現用ベクターの比較
一般的な株であるCHO-K1株を使って、市販のCHO用ベクターとpCHR096ベクターの比較実験を行いました。ハーセプチン安定発現株を作製し、ヘテロセルプール・静置培養での抗体発現量を比較したところ約4倍の発現量が観察されました。
細胞の比較
pCHR096ベクターを使って、ハーセプチン安定発現株を作製し、CHO-K1株と当社CHO細胞での抗体タンパク質の発現量比較を行いました。ヘテロセルプール・静置培養では2倍弱の発現量が観察されました。
■開発秘話~オリジナルCHO細胞開発までの軌跡~
鳥澤研究員のストーリー 詳細はこちら
CHO細胞樹立までの開発秘話を紹介します!
『プロジェクトスタート』
2017年、人工染色体ベクターの開発やバイオ医薬品開発サポート等の事業を進める中で、一つの問題と対峙することになりました。
それは、『研究』から『事業化』に進む際に、既存の細胞に課せられているライセンスという制限が想像以上に大きなハードルとして存在しているという事です。もちろん、私自身も研究開発に携わる立場にある人間として、ライセンスや特許などの権利の重要性は理解しています。それと同時に多くの制限が加わる事で、公共の利益となり得る研究を足踏みさせる訳にはいかないという気持ちも芽生えました。
ここから研究者がライセンスを足枷と考えることなく利用できる細胞があれば、より良い開発環境を整えることが出来ると思い、本プロジェクトがスタートしました。
『チャイニーズハムスターを入手せよ!』
手探りの中でプロジェクトは開始されました。
開始早々に最初の困難に直面します。何から手を付け、何をしていけば良いかを考えるところからのスタートでした。
そもそも、CHO細胞を樹立した経験のある日本人研究者はごく限られています。もちろん、社内にCHO細胞の樹立経験者はいませんでした。
そこで、CHO細胞に限らず、細胞樹立の経験がある方を探しては、話を聞かせてもらい、教えて頂いた内容が社内で実現可能か検討する日々が続きました。
それと並行して、国内で実験動物を扱っている会社にコンタクトをとり続けましたが、系統の分かるチャイニーズハムスターを販売している会社は1社もありませんでした。
同様に海外の販売会社も調査対象に加え、販売していそうな会社にメールを送りましたが、状況は国内同様で良い回答は1社もありませんでした。
ちなみに、海外企業とのやり取りは、全てメールで行われていました。そこで、メールではなく、一度は断られた会社の担当者に直接話を聞くため、電話したところ、1社から今でも販売できるという回答を得ることが出来、見積もりを取得しました。
その後、「なぜか海外の獣医師がサインを拒む。」「販売業者が突如、音信不通になる」「出荷予定日決定後のドタキャンを繰り返される。」等というトラブルを乗り越え、ようやくチャイニーズハムスターの卵巣が当社に到着しました。
『細胞の突然死の原因は?』
早速、細胞培養に取り掛かることになりました。
事前に調査していた培養方法通り、細かく切り分けた卵巣の組織断片を中心に日に日に様々な形態の細胞が溶け出すように培養容器の底に広がっていきました。順調に培養できていると思っていた矢先の6日目の朝、細胞が一斉に消えていました。
まるで破裂したかの様な痕跡だけを残して。
細胞の突然死に呆然とする中、よくよく細胞を観察してみると組織断片周辺の一部の細胞が生き残っていました。生き残った細胞を救うためにも一刻も早く対策を講じねばと気持ちが焦る中、時間的にも細胞の量的にも試行錯誤する余裕のもない状況で何が最善手かを判断しなければなりませんでした。短期間で試せる限りの培地や培養条件を検討し、なんとか培養できる条件を見つける事が出来ました。
チャイニーズハムスターの命や入手の苦労を考え、焦りが出てくるなかで、この培養条件を見つけたときの安堵は今でも忘れられない感情として体に刻まれています。
『ライセンス販売可能なクオリティに!』
培養条件が見つかってからは、観察、培地交換、継代の繰り返しです。
ここから先は、ヒューマンエラーが命取りとなります。
操作は慣れていますが、コンタミネーションをしない様に常に緊張を保ち操作を行いました。大量の培養容器で根気よく培養を続け、約18ヶ月間でサイズ・形状・倍加時間がさまざまな複数の細胞株を樹立することに成功しました。 樹立と並行して実験を進め、結果として、高生産能力の細胞株を複数確認する事に成功しました!
そして、一部の細胞株は目標であった浮遊化にも成功することができました。
その後、浮遊化に成功した株は、無血清馴化にも成功しています。
併せて専用培地の開発も2020年に第一弾が完成。
※2021年現在、用途に合わせた培地開発も継続中です。
2021年春、ライセンス販売を開始しました。
先程、高生産株を複数とお伝えしました。
別のキャラクターを持つ細胞として、現在も開発を継続しています。
そのご紹介は、また、別の機会に。
■ CHO-Spica細胞よるHRP生産
CHO-Spica細胞よるHRP生産 詳細はこちら
CHO-Spica細胞よるHRP生産実績を紹介します。
■目的■
西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)は臨床検査の2次反応によく用いられる酵素である。検体検査では、血液や尿といった様々な有機物が混在する検体中での正確な測定が必要となるため、臨床検査薬としての酵素は高純度なタンパク質であることが求められる。現在検査薬で使用されているHRPのほとんどが西洋わさびから製造されているが、西洋わさびには少なくとも22種類のHRPアイソザイムが存在しており、その含量や組成比が気候や栽培条件により変動するため、製造ロットごとに品質にばらつきが生じやすい。このような背景から、組み換え型HRPの生産が試みられてきた。代表的な発現系として、大腸菌Escherichia coli、酵母Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastorisが試されてきたが、いずれも生産量は低く(E. coli; 0.34 mg/L (Smith et al., 1990), S. cerevisiae; 0.07 mg/L (Morawski et al., 2000), P. pastoris; 1.3 mg/L (Morawski et al., 2001)、実用化に至っていない。
そこで当社のCHO-Spica細胞を用いて高品質なHRPの生産を目指した。
■HRPの生産■
当社で開発したpCHR096ベクターに、主要なHRPアイソザイムであるHRP-C1A遺伝子を搭載し、CHO-Spica細胞へ導入した。PuromycinによりHRP遺伝子が染色体へ組み込まれた安定発現株を選抜し、さらにシングルセルクローニングによりHRPを高生産するクローンを生産株として取得した。この生産株をフラスコ内で細胞培養し、培養上清に分泌されたHRPをAKTAシステムによる疎水性相互作用クロマトグラフィーと陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製し、単一のアイソザイムから成るHRPを得た。

■生産系の評価■
CHO-Spica細胞発現系では、可溶性のHRPを231 mg/Lで生産できた。これはこれまで報告された他の宿主発現系よりも高く、CHO-Spica細胞が優れた物質生産系であることを確認できた。


■生産物の評価■
CHO-Spica細胞により生産、精製されたHRPは、SDS-PAGEにおいて予想よりも大きい分子量を示したが、精製HRPをPNGase F処理したところ、予想されるHRP分子量(33.9 kDa)まで低下したため、N-結合型の複合糖鎖が付加していることが示唆された。CHO-Spica細胞により生産、精製されたHRPは、比活性220 U/mg、精製度の指標となるRZ値(A403/A275)2.7を示し、既存の西洋わさびから製造されたHRPと遜色ない活性であった(参考:富士フィルム和光純薬(株)169-10791; 180 U/mg, RZ値 3.1)。
CHO-Spica細胞生産のHRPはクローン細胞由来であるため、高品質な酵素の安定供給が期待できる。

■お問い合わせに関して■
・生産細胞であるCHO-Spica細胞に関してのお問い合わせ
・生産物質である精製済みHRPに関してのお問い合わせ
に関しては、弊社問い合わせフォームよりご連絡ください。
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